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住まいの本質:第3話「長期優良住宅が住宅建築の標準に」

更新日:2020/9/16

今回の本橋コラムは、前回触れた長期優良住宅認定制度について発足の背景からお伝えしたいと思います。

◆「量」から「質」へ 住宅政策転換で制度化

戦後、焼け野原だった日本の主要な課題の1つは住宅不足の解消でした。
終戦から20年経っても、都市への人口集中や世帯の細分化などで住宅需要は増大。そうした状況を受けて、1966(昭和41)年に住宅建設計画法が制定され、官民一体で住宅建設を強力に推し進める政策が取られてきました。
その後30年以上、ひたすら供給が推奨されたことで住宅ストックは充足。一方で少子高齢化などにより人口・世帯減少が顕在化し、かえって〝住宅余り〟が危惧されるようになります。
そして2006年、住宅建設計画法に代わり、住生活基本法が施行。「量」から「質」重視の住宅政策へと、抜本的に転換されました。

住生活基本法で掲げられた施策の1つが、「安全・安心で良質な住宅ストック・居住環境の形成」です。これを具体化するため、2009年に長期優良住宅認定制度が施行されました(増改築に係る認定制度は2016年開始)。
当機構では、欧米のように資産価値のある住宅が流通する社会を長期優良住宅認定制度によって実現できると考え、その普及を役割の1つに位置付けています。

長期優良住宅として認定されるには、定められた基準について一定の要件を満たす必要があります。
基準は「劣化対策/耐震性/維持管理・更新の容易性/可変性/省エネルギー性/バリアフリー性/維持保全計画の提出・住宅履歴蓄積情報の完備/住環境への配慮/住戸面積」の9つ。例えば劣化対策については「数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できること」を念頭に、住宅性能表示制度(※)に基づく劣化対策等級(構造躯体等)の等級3に該当することが求められます。
「安全・安心で良質な住宅ストックの形成」が長期優良住宅制度の目的ですから、当然ながら、その建築に際しては従来より高いレベルが求められるのです。

といっても、大工はじめ各種職人さんの技術力向上が必要ということではありません。職人さんが、プラスアルファでなにか身につけなければならないわけでもありません。
長期優良住宅の肝は『設計力』。構造計算などが複雑になるため、設計のレベルを上げる必要があるのです。 また、認定を受けるための申請にも手間を要しますし知識も必要。事務作業の効率化も必須と言えるでしょう。

◆中小事業者のハードル高く 支援制度活用しよう

ただ、いきなり「設計力のレベル向上」「事務作業の効率化」などと言われても、特に資金や人材など様々な面で余力の少ない中小規模の事業者の場合は、実践が難しいと思います。 実際、長期優良住宅の供給については、大規模事業者と中小規模の事業者との間で差が開いていることが明らかになっています。

戸建て注文住宅の供給戸数に占める長期優良住宅の認定割合(平成30年度、長期優良住宅制度のあり方に関する検討会資料より)をみると、大規模事業者(年間供給戸数1万戸以上)の場合は88.7%(年間供給戸数25万戸、長期優良住宅の認定戸数22万戸)。年間の供給戸数のうち、9割近くを長期優良住宅が占めています。
これに対して中規模事業者(同1万戸未満)は37.9%(年間供給戸数13.7万戸、長期優良住宅の認定戸数5.2万戸)。小規模事業者(同150戸未満)に至っては14.7%(年間供給戸数12.8万戸、長期優良住宅の認定戸数1.9万戸)にとどまっています。

この差を踏まえて、対象を中小事業者に絞り、長期優良住宅をはじめ良質な住宅の供給を支援する「地域型住宅グリーン化事業」(以下、グリーン化事業)という制度を、国が用意しています。当機構はグリーン化事業がスタートした2015年から事務局として、毎年採択されています。長期優良住宅を手掛ける際の足掛かりになると考え、会員の工務店などに対して参画を促してきました。

グリーン化事業に取り組むには、まず工務店や建材流通事業者、製材事業者、原木供給者など、地域における木造住宅の関連事業者が連携してグループをつくり公募します。採択を受けたら、住宅の規格・仕様や積算・施工方法、維持管理などに関するルールをグループごとに決め、それに基づき省エネ性や耐久性などに優れた木造住宅を建築。その際に補助金の支給を受けられる仕組みで、当該住宅が長期優良住宅ならば1戸当たり110万円を限度に補助されます(4戸以上の施工経験を有する事業者の場合は1戸当たり100万円)。

当機構が事務局を務めるグループは現在、原木供給や建材流通、設計、施工などに携わる全国の57社で構成されています。生産する住宅は、合法木材の利活用といったルールに即し、もちろんすべて長期優良住宅。「五感のある暮らし サスティナハウス」という共通ブランド名を付け、視覚・聴覚・触覚・温熱感覚・嗅覚を指標として居心地の良さを追求した住宅を供給しています。令和元年には、採択された695団体の中でも、特に「高評価優良グループ」として国土交通省から特別に認定された全国39団体の1つに選ばれました。

事務局としての当機構の役割は、必要資料・仕様の確認や申請図書の作成、評価機関への申請といった事務のサポートです。建築時の掛かり増し費用について補助金で補填し、申請に係る煩雑な事務作業を当機構が代行することで、長期優良住宅を建築する際のハードルをできるだけ低くしています。

◆支援事業は〝取っ掛かり〟 良質住宅の供給は当然の責務

ただし、グリーン化事業はあくまで〝取っ掛かり〟として活用すべきだというのが私の考えです。
確かに、長期優良住宅の建築にはコストも手間も掛かるので、中小事業者が無理なく供給できる体制を整えるには準備期間が必要でしょう。その際に有効なのが、グリーン化事業ということです。しかし本来、資産となる住宅を供給するのは建築事業者にとって当たり前の責務。ずっと補助金がなければそこにコストを掛けられない、というのは道理に合いません。

現在、当機構の会員企業の約7割が、長期優良住宅の建築を自社の標準としています。グリーン化事業や、当機構が主催する長期優良住宅の勉強会などを経て、多くの事業者が〝独り立ち〟していきました。それでも社会全体でみれば、長期優良住宅を手掛ける中小事業者はまだまだ圧倒的に少ないのが現実です。

◆施主の意識変えるのも事業者の仕事

私は、当機構を通じ多くの中小事業者と日々接していますが、彼らの中で仕事に対する意識が二極化していると感じています。
顧客のために「よりよいモノを提供しよう」と考える事業者は、常に謙虚で学ぶ精神をもち、活躍するステージをどんどん上げていきます。
反対に学ぶ意欲のない、努力を惜しむ事業者に共通するのが「(長期優良住宅の建築は)強制でないから手掛けない」「現状維持でよい」というセリフです。

「お施主様自身が長期優良住宅を求めていない」という声も、よく聞かれます。
こうした意見に対しては、「むしろお施主様の意識を変えることも私たちの仕事だ」と反論しています。

◆施主の家作りの目的は“幸せ”のため

家づくりの依頼は例年、夏から秋にかけて増え始めます。子どもの小学校入学など、次年度が始まるタイミングに合わせて新居を構えたいと考える人が多いというのも理由の一つです。 その根底には、子どもの成長や家族の幸せを願う気持ちがあるのでしょう。
ただ、漠然と幸せを描いて依頼されるものの、建築の知識や住宅政策の動向に精通しているお施主様はほとんどいません。業界関係者ではないのだから当然です。だから長期優良住宅についても、自ら進んでそれを選択することは稀で、また事業者から軽く提案された程度ではぴんと来ない方が大半かもしれません。長期優良住宅にすべき根拠を〝知らない〟から、望まないのです。

建築事業者の仕事は、住宅を建てて終わりではありません。
むしろ住宅が完成した後、お施主様家族にそこで幸せな暮らしを営んでもらうことこそが作り手の使命であり仕事の本質です。そのためには、『資産となる住宅』を提供することが前提になるのではないでしょうか。その点を真剣に考えたうえで、お施主様にとって最適な選択肢を提案することのできる事業者が1社でも増えてほしい、と願っています。

一般社団法人建設業総合支援機構
本橋秀之

第1話「豊かに暮らせる家を造ろう
第2話「日本の住宅の現状
第4話「日本の山・木材の現状①

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国土交通省地域型住宅グリーン化事業 サスティナハウス