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住まいの本質:第5話「日本の山・木材の現状②」

更新日:2020/12/1

日本の山の現状② 川下事業者の役割とは

前回は、日本の山の現状――林齢を重ねた立派な木々が伐採期を迎えつつある一方で、手入れがされずに荒廃している山々が日本にはたくさんあること、それに対して国が様々な政策を展開していること・・・についてお話ししました。

政策の中でも、直近の2年間で制定・改正された重要な法律が、「森林経営管理法」と「国有林野管理経営法」です。今回はまず、これらに触れたいと思います。

◆山林所有者、管理の担い手をマッチング
森林経営管理法は、2018年に制定されました。この法律に基づき2019年にスタートしたのが、森林経営管理制度。管理されていない森林の所有者と林業経営者(林業生産活動を行う経営者)を、市町村が仲立ちしてマッチングする制度です。

制度の流れは、次の通り。
まず市町村が森林所有者に、所有する森林をどのように経営管理していきたいのか、意向を確認します。
その森林が林業経営に適しており、更に所有者が「市町村に経営管理を委託したい」という意向ならば、市町村が林業経営者に経営管理を再委託します。林業経営に適さない森林なら、市町村自らが森林の管理を行います。現状できちんと管理されていない森林を集約し、その管理を意欲のある林業経営者に担ってもらうのが同制度の目的です。

◆国有林の一部伐採権を付与
同制度がうまく機能するための要は、何でしょうか。
そう、林業経営者です。山林管理の実務の担い手が十分に確保できなければ、制度が絵に描いた餅で終わりかねません。そこで、林業経営者の育成をサポートする目的で、国有林野管理経営法(国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律」が2019年に改正されました。
林業経営者に経営基盤を強くしてもらうために、国有林が民有林を補完する形で、長期間安定的に林業経営者へ木材を供給するよう措置する――というのが、主な改正内容です。

具体的には、公募で選ばれた林業経営者に、国有林の指定された一定の区域で木を一定期間(最長50年)にわたり伐採・取得できる権利が与えられます。
伐採後の跡地は、原則として伐採した林業経営者に事業委託する形で、国が植栽を実施します。伐採した林業経営者に事業委託するのは、伐採と植林を一体的に行うことでコストが抑えられるためです。仮に当該林業経営者が植栽を行えないとしても、国の責任で確実に植林が実施されます。

◆木材の主用途はバイオマス??
山林管理の担い手である林業経営者を育成しつつ、管理が行き届いていない山林を集約してその管理を林業経営者に手渡す――。2法が機能しあって「植える→育てる→収穫する」という循環サイクルが広がれば、まさに理想的です。ただ、特に後者の国有林野管理経営法の改正について、私には気になった点がいくつかありました。

1つは、伐採した木材の用途として「何」が主に想定されているのか、ということ。というのも、「木質バイオマス発電への木材の安価な大量供給が法改正の狙い」という一部報道を目にしたことがあったからです。
実際に木質バイオマスの利用量は、発電利用を中心に近年飛躍的に増加しており、2018年は2011年の約9倍となる624万㎥に上っています。

化石燃料に頼らない、地域で完結する自立型のエネルギー供給そのものには私も賛成です。それに、木質バイオマスには間伐材などのいわゆる「C材」が使われるのが一般的ですが、需要増大を受け、建築資材に適したA材やB材までも木質バイオマス向けに供給されてしまうのではないか、との不安を感じていました。

この点について林野庁に確認してみたところ、「木質バイオマス関係の用途とのバランスはとても重要」としつつ、「まずは住宅・非住宅の建築用土木(での利用)をしっかり伸ばしたい」との回答を得ました。
「バイオマスの需要は旺盛だが、取引される材としては価格も安く、結局は燃やしてしまうもの。できるだけ建築資材として長く使い、最後に燃料として適切に使っていきたい」(林野庁担当者)。個人的に、安堵できる回答内容でした。

◆「造林~伐採」最長50年は妥当?
気になった点は、もう1つあります。
前回述べたように、これからは「31~60年」生の若い木に代わって、無垢材としてそのまま使えるような「61~100年」生の立派な木がたくさん産出されるようになります。
一方で、改正国有林野管理経営法に基づき国有林の指定された一定区域で伐採できる「一定期間」(樹木採取権の存続期間)は、「最長50年」と設定されています。
林野庁によると、この期間は「一般的な人工林の造林から伐採までの一周期の50年」を基準として決められた、とのこと。それでは従来と変わらず、主に集成材として使われるであろうB材の産出が主になってしまうのではないでしょうか。

このように懸念は残りますが、法改正による措置は既に始まっていますし、経過を見守りたいと思います。また、問い合わせの際に「国レベルで山林経営の意欲を取り戻し、その結果として国産材の供給を拡大したい」という、林業再生に向けた林野庁の基本方針も聞くことができました。
当機構としては今後も、川下の立場で果たすべき役割を全うしていきます。

◆合法木材を使おう
その「川下の立場で果たすべき役割」についてお話しします。
それはずばり「合法木材を取り扱うこと」です。

合法木材とは、「森林関連の法令において合法的に伐採されたことが証明された木材」のこと。正しい手続きで生産されたまっとうな木材、ということです。反対に、扱うべきでないのが「非合法」「違法」な木材です。

「違法伐採」と聞くと、どのようなイメージが浮かびますか。
熱帯雨林で横行しているような、遠い国での出来事――といったイメージでしょうか。
それは一面では事実です。例えばベトナムでは、違法伐採による森林消失が社会問題化。マレーシアの国立公園では、違法伐採者が丸太を搬出するため造成した二輪車用軌道が見つかるなど、大規模かつ悪質な事例が報告されています。
更に近年、違法伐採がテロ組織やゲリラの資金源になっている事実も確認されています。違法伐採は国際問題であり、20年以上前から国際会議の議題としても取り上げられてきました。

以上を踏まえると、違法伐採された輸入木材を取り扱わないことがまず肝要です。ただ、これは海外だけの問題ではありません。日本国内においても、山林の所有者や管理自治体に無断で木材を伐採する違法な事例が近年、相次いでいます。多くの山林で管理がおろそかになっていることの弊害が、このような形でも現れているのです。
よって、国外・国内問わず違法に伐採された木材を取り扱わないことが、私たち建築関連事業者が果たすべき役割ということになります。

国も、当然ながら対策に動いています。
2016年、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」、通称「クリーンウッド法」が成立しました(施行は2017年)。同法では、合法的に伐採された木材を扱うことを、建築事業者を含めた木材関連事業者の努力義務としています。その上で、合法木材の利用に適切・確実に取り組む企業を「登録木材関連事業者」として登録。その情報が公開されることで、信頼できる事業者として市場にアピールできる、という制度です。

同法で定義される「木材関連事業者」は2種類に区分されており、建築関連事業者は「第二種木材関連事業者」に該当。第二種木材関連事業者には、木材の製造・加工などを手掛ける第一種木材関連事業者が合法性を確認した木材を使用する際に、その事業者から提供された書類などの内容確認をすることで合法性を確かめる作業が求められます。

◆「目先の利益だけ追求」の時代は終わった
クリーンウッド法は、率直に言って厳しい法律とは言えません。
合法木材の利用は義務ではなく、努力義務に過ぎないからです。合法木材を利用しなくても、罰則などはないのです。
こうした点を挙げて、法律が「ざる」だと批判するのは容易いです。
しかし私は、敢えて建築事業者のモラルの方を問いたいと思います。
「違法に伐採された木材を扱い続けていて、本当にいいのでしょうか?」

違法伐採された木材は、一般的に安価です。だから手を伸ばす事業者が一定数いるわけですが、目先の実利だけを追い求めて仕事になる時代は終わりました。一度立ち止まって、想像力を働かせてみませんか。その木はどこから、どういった経緯でやってきたのでしょうか。その証明はありますか?違法伐採の木と引き換えに支払ったお金は、何のために使われるのでしょうか。

前回述べたように、建築・建設業は地球上の資源を大量に使うことで成り立っている現状があります。きれいごとではなく、地球上の環境や平和を守る視点をもつのは、私たち建築事業者にとって当たり前のことであるはずです。

過去の記事
第1話「豊かに暮らせる家を造ろう
第2話「日本の住宅の現状
第3話「長期優良住宅が住宅建築の標準に
第4話「日本の山・木材の現状①

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本橋秀之

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